2017-04-01 1988年の一歩 散文詩 幼い頃の僕は カブトムシが好みそうな雑木林を探検するのが好きで 湿った枯葉が敷き詰められた地面を踏みしめては 「この場所を最後に踏んだのは 僕の前には誰だったんだろう」 なんて 20センチにも満たない小さなマジックテープ式の スポーツシューズを 眺めてしまったものさ 「もしかしたら人類で初めて僕が この場所を踏んでいるんじゃないか」 なんて こんがりと日焼けした真っ黒な顔を硬直させて 汗だけは止められずに 思ってしまったものさ アームストロング船長も きっとこんな気持ちだったに違いない 僕は次の一歩を踏み出せないまま ひたすらセミたちの大歓声を浴び続けた 1988年のことだ