1月30日発売「月刊バーズ」にてマンガ『多動力』掲載
2018年1月30日発売「月刊バーズ」(幻冬社)にて、
マンガ『多動力』プロローグが特別掲載されます。
堀江貴文氏のベストセラー『多動力』(幻冬社)をコミカライズしたもので、
この度、ご縁があってその作画を僕が担当させて頂きました。
初めてのことばかりで、制作は挑戦の連続でしたが、なんとか形にすることができて安堵しています。いや、まだ最終回執筆中なわけですが。支えてくれた方々に本当に感謝です。
是非、手にとって頂ければと思います。
よろしくお願い致します。
原作:堀江貴文『多動力』(幻冬社)
月刊バーズ3月号(幻冬社)
紙さまどうかよろしくね
いつだって腰が重たくなるものさ
とても集中力がいるものだから
今日のところは
音楽さんもお留守番をしてもらっている
昔のリズムで今日を刻んでくれている
ちょっぴり大きな音だけどね
わかっているだろ
紙さまどうかよろしくね
水晶玉の石
そんなひとくくりで話し始めてしまうけど
今日はこの言葉から始めたい
「終わる」ということが想像できてない
「もう二度ともとに戻らない」ということも
なぜだろう
「リセットできる」と
どこかで思っているのだろうか
そんなことはありえないのに
川に連れて行ってもらった夏休みのある日
父は河辺で平べったい石をすっと選んでは
腕が水面に水平になるようなサイドスローで
素早く石を滑らせるように投げた
石は川に沈むことなく水面の上を3歩4歩と
飛び跳ねるように遠くに消えて行った
ドキドキした
不思議でならなかった
僕は父の投げ方を一生懸命真似をしてみた
投げる瞬間
何度も父が投げた石の軌道をイメージをしたけれど
何度やっても石は乗り気にならないようで
ポチャンと一度だけ音を立てて
沈んで行ってしまった
僕は父にどうやったらできるのかせがんだ
すると父は
「平らな石の方が成功しやすいんだよ」
と教えてくれた
僕はすぐに自分の足元を必死に探し始めた
そして平らな石を探しては何度も投げた
何度も 何度も
そのうち人差し指が石の摩擦で痛くなって来た
そのうち たしか
僕は水切り遊びを上手にできるようになったと思う
でもそれよりも何よりも僕の記憶に覚えているのは
成功した瞬間の風景ではなくて
水切り遊びも終盤に差し掛かった頃に見つけた
一つの石のことだ
それは平べったいというよりは
どちらかというととても球体に近いものだった
こんな見事な球体の石を僕は見たことがなかった
まるで丸い水晶玉が
そのまま化石化したような形だった
僕は旅行中ずっとその石を持っていたのだけれど
最後の日にどうしようもない欲求が
僕の心の中に充満して行った
「この石で水切りをしたら一体何回跳ねるだろう」
決意と躊躇が足元に寄る川の水のように
何度も行き来をしたが
結局最後は父を真似た渾身のサイドスローを決めた
どこまでも跳ねていく頭の中のイメージとは裏腹に
水晶玉は勢いよく水面に当たると
そのままの勢いで川の中に沈んで行った
激しい後悔が襲った
僕は急いで足元に転がる石たちの中から
もう一度水晶玉を探そうとした
似たような形のものは片っ端から拾って行った
やがて帰る時間も差し迫って来て
両親は諭すように遠くで僕の名前を呼んだ
僕は目ぼしいものをいくつか選んで
急いでポッケに入れた
家に帰ると
机の中の宝物箱の中にその石達をそっとしまった
夜毎にその箱を開いては
石達を手に取ってみたけれど
やはり僕の頭の中にはいつも
あの水晶玉のことがあった
なぜ投げてしまったのだろう
夜になると僕は何度もそのことばかりを考えて
後悔を拭うように寝返りを打っていた
そんな記憶がある
川に投げてしまったあとに
同じようなものを探しても
もう二度と見つからなかった気持ち
それはそのまま人との出逢いや別れそのものだと
大人になってから思った
そんな思い出や記憶が彼女にはないのだろうか
わからない
わからないけれど
少なくともこれだけは彼ら彼女達に言おうと思う
失ったらもう二度ともとに戻らない
もしもう一度手にしたとしても
それはもう別の石だ
then and now
「冬が来たのだ」と思っていたけれど
すでに落ち葉がたくさん集まっていたのを
僕は気づかなかった
アマゾンで頼んでいたものを思い出したけど
すでに雨に濡れた不在票が入っていたのを
僕は気づかなかった
やっと駐車場から車を出すと
すぐに小さな川を跨ぐ道路に差し掛かった
下校途中のある一人の中学生が
僕の車が通り過ぎるのをじっと待っている
誰かを想いながら歩いた景色を
時速40kmで通り過ぎて行く
まるで走馬灯のように
その連なりに気づくことに他ならない
軒先の氷柱に気づくことに等しい
ある朝 長い氷柱に気づきながら
氷柱を長くしたそれまでの時間に気づくのだ
僕と君が出会ったことにも等しい
ある日 お互いの「今」で結ばれながら
僕らは僕らになったそれまでの人生で結ばれるのだ
北風は運べない
「一雨ごとに気温は下がってゆくでしょう」
今朝の天気予報を思い出しながら
ハンドルに顎を乗せて空を見上げる
冬に向かってゆく北風の冷たさは
何も終わっていないのに終わりに向かってしまう
「切なさ」を持っている
すべてをピューピューと運んでしまうのに
すべては運んでくれないのだ
それは中高生の受験期によく似ている
季節を運び 人を運び 時代を運ぶ
だがしかし北風は
僕の気持ちだけは
どこにも運んではくれなかったのだ
思えば「片想い」とはそういうものだった
どこにも運ばれることもない
どこにも転がることもない
決して動かないもの
世の中が一斉に年を跨いで行く中
弟が新しい凧を空に飛ばす中
僕は僕のまま年を越えるのだ
肩を叩くように水滴が窓を小さく叩いた
国道沿いを歩く学生達
傘をさす者 慌てて自転車の速度を上げる者
僕はワイパーを振りながら仕事場へ向かう
僕らはどこかへ運ばれるようで
きっとどこにも運ばれない気持ちを持っている
もうすぐ北風が強くなる
青リンゴ
足りないものを並べて怒っている
彼がいう愛 私が思う愛
色が違いすぎてとても同じものとは思えなかった
赤リンゴと青リンゴのよう
甘いようでいて とてつもなく酸っぱい
「抱き締める」と書くと怖さがある
「重い」には鎖に繋がれた鉄球の束縛がある
と言っていたけれど
そんなことを言ったら
子ども達はどこに夢を書けばいいのだろう
恋人達の「ずっと一緒にいよう」は
きっと約束だったとしても約束ではなく
それは「願い」だ
言ったことを実行できなかったら罪だろうか
人も 言葉も 夢も 想いも 時代も 変わる
変わっていい
誰が責めることができるだろう
変わることを責められて
変わって行く自分を責めながら生きることは
とても苦しい
言葉にすることを怖がってはダメだ」
そう思えるようになったのは
彼と別れてずいぶん経ってからのことだった
チャンスを与え やり直し
もう一度信じてみたくなる
そんなのわかりきっていることなのに
私は彼に抱き締められながら
星を滲ませながら 頷きながら
「もう一度」を与えてしまうのだ
いつかは赤くなることを
バカみたいに祈ってしまうのだった
永遠を歌うにはあまりに早すぎる
時を待てずに刈り取られた
かわいそうな青リンゴ